夜  話  
「他人の哀しみを我が事のように泣く奴を優しいと呼ばないで、誰をそう呼ぶんだ?」


少し冷たい指で、わたしの頬を伝う涙を拭ってくれた皎はそう言うと、両の手で包み込むようにわたしの顔に手を添え、美の神様の傑作のような麗しい顔をわたしに寄せてきました。


間近で見る皎の美貌に跳ね上がる心拍数に耐え切れずに、わたしは思わず目を閉じてしまいます。


そんなわたしの涙の跡に皎は軽く口付け、小さな囁きを耳に残し。


すうっと溶けるように、その気配を消してしまったのでした。


まだ少しひんやりとするような気がする目元にそっと手をやり、わたしは瞳を開けて空を見上げました。
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