夜  話  
「見つめるだけで、触れる事も出来なかった時よりも良いのかもな。」


けど………と、皎は再び形の良い眉を寄せました。


「今宵かぎりの逢引きで………却ってそれは辛い……。」


「いいえ。」


わたしは、つい皎の言葉をさえぎってしまいました。


「いいえ、そうじゃないわ。
ほんの小さな思い出だけでいいのよ。
それがあれば、また。
辛い日々を乗り越えて行くことができるもの。」


わたしの言葉に、皎は少し驚いたように目を見開き、そうして、花が開いていくように笑顔を咲かせました。
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