夜  話  
「それでも、不自由はしていないのよ?必要なものは全ていただけるし、着るものだってこんなに贅沢なものを用意してもらってるし、飢えたことなんて一度もないもの。」


エンはそう言って笑ったが、その笑顔を全面的に信じるには俺はエンの事を知りすぎていた。


「我慢してばかりで、辛くないのか?」


そう問い掛けた俺にも、エンは笑顔を浮かべて言った。


「なんにも、我慢なんてしていないわ。」


そう笑いながらも、くぐり抜けることのできないほど小さな窓から外を見るエンの視線の中に、外の世界への憧れが隠されていることを俺は知っていた。
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