ちょっと怖い話
全編
 私は伊豆スカイラインの冷川インターチェンジを下りた。後ろの座席には知り合いの女を乗せている。
「今日は、近道をしてみるよ。まだ、通ったことがない道で、一回走ってみたかったんだ」
 女は、窓をわずかに開けて、黙って車窓の外を見ていた。
 しばらく走ると、左折、国士峠と出ている。左折した。途中に県道59号線の表示が出ている。舗装道路だが、狭く、曲がりくねった林道のような道だ。標高を上げていく。
「なにか、怖い道ね。車も全然来ないし」
「国士峠っていうくらいだから、何か、いわくがありそうな、道だな」
 カーブから対向車が来るのに注意しながら、標高を上げていくが、対向車は何も来ない。
 道路脇に、白い杭が見えた。国士峠と書いてある。峠といっても、森の中で、山々や海が見えるわけではない。
「きゃ、何、あれ」
「何、何かいたのか」
「変な、白いものを着た、子供みたいな物が、こっちを見ていたように。空気も変な臭いがしたような気が」
「えー、ほんとか。俺には何も見えなかったが。やはり、何か因縁か何かがあるな。多分、そうじゃないかと思ってたんだ。だから、この道を通りたかったんだけどね。でも、これで、ここも鎮まったんじゃないかな」
 私は、家へ帰ってから、インターネットで国士峠を検索してみた。

 1551年、上杉憲政が小田原の北条氏康に攻められた。憲政の子、竜若丸は氏康の人質となり修善寺へ送られたが、湯ヶ島に逃れ自害して果てた。  家来たちは竜若丸の亡がらを「輿(こし)」に載せて、この峠を越え、寺に葬った。時に13歳。今も、寺に静かに眠っている。
 昔、この峠は「輿提峠(こしさげとうげ)」と呼ばれていたが、今日では国士峠と名づけられている。(中伊豆町資料より)

「やっぱり、いわくがあったんだ」
「もう、あの道は通らないでよ」
「あー、もう通らないよ」
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