シルバーブラッド 眠らぬ夜に
「あ、そうだ。切山くん、これ」

 増本さんが立ち上がって、黄色い真四角の付箋を、浩之のノートに貼り付けた。

 そこには、筆圧の強い、乱暴で魅力的に整った字が並んでいた。

 これは牧野の字だ。

「帰り、飲みに行こう。

六時までには帰れると思うから待ってて。牧野」

 牧野は同僚で浩之の一つ年上だ。

ここに来る前、一年ほど他の会社にいたために、浩之と同じスタートになった。

そんな事情を知るより前にため口をきいていたので、今だに牧野は呼び捨てだし、敬語なんて使ってなかった。

 年上の人や先輩には敬語を使うように。

というのがここの社長の教えだが、浩之はこの点で、それを守れてなかった。

今さら守る気もないが。
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