追憶 ―箱庭の境界―


豊かなのは中心部の人間だけだ、そう大人たちが口々に言う。
少年もまた、其れを自身の肌で感じていた。

どの町にも、豊かそうに見える陰では苦しむ人々が居る。
町外れは、そんな人間の溜まり場だった。


親のない少年は、日陰で暮らす者ばかりが集まる寂れた宿屋で下働きをしていた。

保護者はと言われれば、住み込みで働くその宿屋の親父さんになるのだろうか。
酒ばかり飲み愚痴を溢す、あまり誉められた人ではない。

だが、少年を粗末に扱う事もなく、ましてやいびる様な悪い人間でもない。

少年は感謝していた。
拾って貰った恩がある。
働き口をくれた恩がある。

しかし少年に教養を学ばせる程の金に余裕もなく、そこまで面倒を見てやれる程の器量を保護者である親父は持ち合わせてはいなかった。


「…あなたは、この学園に入りたいと思わないの?魔術の勉強は?誰に?」

少女はそう聞いた。
温室育ちのお嬢さんに悪気はないのだろうが、少年には嫌味に聞こえた。

「…はっ…ははっ…」

少年は冷めた笑いを漏らした。


此処は町の中心に構える学園。

魔術の栄えた国が誇る、最高の教育が受けられるとされる少年には無縁の場所だった。


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