追憶 ―箱庭の境界―
そして毎度少年が忍び込む此の場所は、其の学園内の外れに在る主要とされていない施設。
屋外にレンガの囲いを施した、簡易な植物園。
こんなに素晴らしく珍しい樹が在るというのに学園で疎外されている印象を受け、少年は不思議でならなかった。
だからこそ少年が忍び込む事が出来るのだが。
自分の質問になかなか答えようとはしない少年に、少女はさらに質問を投げ掛ける。
「…あなたもウィッチでしょう?黒髪に青い瞳だもの!」
「えぇ、一応。でも魔術を教えてくれる人が僕には居ないから…」
黒い髪に青い瞳。
ウィッチである証を少女に指摘され、少年は居心地悪そうに目を伏せた。
宿屋の親父も町外れに住む人たちも、少年の周辺にはウィッチは居なかった。
金色の髪に緑色の瞳。
それが普通の人間だった。
「そうなの…」
サァ……
乾いた風に吹かれ、柔らかな桃色の花びらが舞う。
ひらひらと、其れは踊る様に少女に降る。
日射しの強い島国だというのに、与えられた魔力によって生き生きと揺れる樹の木陰。
「じゃあ、私が教えてあげる!」
目の前に居る黒髪の少女はそう言って無邪気に笑っていた。
桃色の、
柔らかな花びらに囲まれて。