追憶 ―箱庭の境界―


「――現実よ!鬼さん、瞳を反らさないで!ちゃんと見て!」

『……ウゥ…』

向こう岸には、
「黒猫」が座っている。

我を、じっと見ていた。



たった一言が、言えなかった。

想いを相手に伝える事が、
理解し合う事が、

出来なかった。


「…そうね。でも悔やんでるわ。独りで、永遠に近い長い時間、苦しんだわ。」

少女の言葉が返る。

洗礼を受けた者には、
「心」が読める事を思い出した。



たった一言が、言えなかった。

「殺してくれ」と、
口に出して伝えれば良かった。
其れを、しなかった。


「……1度だけ、口に出した事があるんじゃない?」

『………』

そうだ、
…1度だけ…言った事がある。

永久封印され、
幽閉されたルリ島で…、

毎日通ってくるリフィル様に、
彼女の前でだけ、
1度だけ…言った事がある。


『…お願いです…、私を、殺して下さい…リフィル様…』

彼女は言った。

『彼らの分まで生きて苦しむ事が、私たちの戒めなのよ。この命が「天」に還る迄、苦しみ続けるの、マルク。』


どうして、
其れを少女が知っているのか。


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