追憶 ―箱庭の境界―


「――ははっ!かあちゃん!色付きのウィッチじゃあるまいし、この弱虫に何が出来るって!?魔術で『皿洗い』が良いとこだろうが!」


(……っ!!)


「おぉ、どうした。いっちょまえに拳なんて握って、悔しいのか?お前は何も出来ねぇ、ただのガキだろうが!」

「――あんた!怖いから止めておくれよ!」

「…かあちゃん、何が怖いんだよ?便利じゃねぇか。紅色の魔力でも持ってりゃ俺だってビビるがよぉ?」


(…何も出来ない?便利…?)
(…おじさん…?)


「――ただの、中途半端なガキだろうがよ!?」


「―――っ!?」


(…っ…僕はっ…)
(――僕は…!!)


「――ぅわぁぁあぁぁあぁ!!」


少年は此の時、
初めて人に魔術を向けた。


富も名誉も地位も、何もない。

親も友も、何もない。


魔術の栄える此の街の、
魔術を持たない町外れで。

魔力を持つ側にも、
魔力を持たない側にも、
どちらの輪にも入れない「中途半端」な少年は、

里親である宿屋の親父と女将の記憶を消して、

あの橋の境界を越えて、


此の街を出た。



『自由』を手にするには、
『力』が必要だと知った。


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