追憶 ―箱庭の境界―
しかし紅色の魔力が強力である故に、青年の作った薬の方が耐えられない。
「…やはり人が制御出来る代物ではないのでしょうか…」
紅色の魔力は其の血の強力さ故に、術者本人の自我ですら蝕む症例が多いと言う。
「…明日、薬の濃度を強くしてもう一度試してみますが…。」
青年は顔色を曇らせた。
『…血は?どうするの?』
仮に薬に魔力を吸収出来たとして、其の液体には王女の「血」が必要となる。
其れをどう手に入れるのか。
『あたしが遊ぶ振りをして引っ掻いてやろうかしら?』
「それはハイリスクですよ…。アンが打ち首になる姿は見たくありませんからね。止めて下さいね?」
『…でも、時間がないのよ?』
「――アン!?……止めて下さいね?勝手な事はしないで下さい。約束ですよ?」
『…わかったわよ…』
問題は山積みだった。
仮に青年の言う「紅色の魔力を吸収した薬」を作れたとして、其の「小瓶1つ」では出来る事に限りがある。
(この薬を長期間で幾つも収集していく予定だったのに…。間に合わない…)
今の青年に、リフィルの何が救えると言うのか。
青年も黒猫も、普段の余裕の態度は日に日に無くなっていた。