Salvation 〜救い〜
今まで知っていた

「シュンちゃん」

ではない何かが

生まれているのを感じて

トシキは身震いをした。



その様子を見て

横井はトシキの肩をたたきながら言った。



「何怖い顔してんだよ。大したことねえって。ちょっと俺が仕事する時一緒にいてくれりゃいいだけだよ。お前最近タッパすげえ伸びたろ?そばに立ってるだけで迫力あんだよ。」



確かにこの半年くらいで

トシキの身長は急速に伸びていた。



正月の頃と比べると

10センチ近く伸びたかもしれない。



少し前までは横井とほとんど変わらなかったのが

今では横井が見上げるくらいになっていた。



「シュンちゃん、仕事って何?今どんなことやってんの?」



不安そうに横井に尋ねるトシキだったが

それには答えず横井は立ち上がった。



窓の外を見ながら横井は言った。



「なぁ、トシ。俺たちゃここで育ったろ。施設で育つ人間なんて世の中のほんの一握りなんだよ。」



「・・・・・・。」

横井の次の言葉を待つトシキ。



「施設で育った人間にゃ家族も親戚もいねえも同然だよな。この冷たい世の中渡っていくには施設育ち同士助け合っていくしかねえんだよ。」



何を言っていいのかわからずに黙っていたトシキに

横井は続けて言った。



「ま、とにかくそんな心配するこたぁねえ。金曜の夜11時に○○町の駅前にあるグリーンって喫茶店に来てくれ。駅の北口から降りりゃあ目の前だから。」



「えっ・・・。11時に○○町のグリーン、だね?」



「そうだよ。じゃあ、頼むぞ、トシ。」



それだけ言うと

横井はすたすたと去っていった。



「シュンちゃん・・・。」



胸の奥に

何とも形容しがたい重いものが残った。



しかし

兄のように慕ってきた横井の頼みを

断わるわけにはいかなかった。



このときのトシキは

この後の人生を

横井によって望まぬ方向にずるずると引きずられていくことなど

夢にも思っていなかった。
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