なんでも屋 神…第一幕
子供のように涙を流す神…。



自らの本心とは逆に一葉の存在を遠ざけた…その事に許しを乞う神に、最初から恨みも憎みもしていない一葉。その瞳から流れる涙は、神に出会えた事に感謝し、初めて頼られた事に対する嬉し涙。



雲一つ無く晴れ渡った夜空とは擦れ違い、神の部屋に降る大粒の秋雨。



間近に迫る月灯りは、点けた事の無いテレビやテーブルの影を切り取り、テーブル上のガラスの灰皿や、その横に無造作に置かれたベレッタを輝かせた。



その部屋で肩を震わせる二人の影絵…照れたように、一筋の雲を纏い隠れる月。



そんな月を待っていたかのように、先程より薄暗さを増した部屋で、次第に二人の影絵は近付いていき、お互いの唇が重なるまでの距離は、偽りで離れていた心を引き戻す為の大切な時間。



募る思いの全てを…今、唇に乗せて影絵が重なる。互いの気持ちの重さを確かめるよう、何度も唇を重ねる二つの影絵…。


確かめ合う儀式が終了した所で、安心しきったように眠りにつく神。



雲を取り払った月は、その大きさと満面の笑みとも見える形で二人を祝福した。



そして切なくなったかのように、また月は雲に隠れる…物語はまだ終わらない。



月はそれだけが悲しかった…。
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