なんでも屋 神…第一幕
取るものも取らず、着の身着のままで何とか一番早い飛行機に乗れるように掛け合い、約丸一日かけて帰国した。



勿論一睡もせず、気が付けば何も食べずに、お袋の容態ばかりを考えていた俺は、ただただその光景を見て呆然としている。



「あら、坊ちゃまお帰りなさいませ。」



此方に背を向けて、競馬のテレビ中継を見ていたイトさんが、紅茶とミルフィーユの準備をしようと身体を立ち上がらせた時に、やっと俺と目が合った。



次の瞬間、テーブルの上に置いてあったお茶菓子の中から、煎餅を取り出そうとしている途中のお袋が振り向く。



「お、馬鹿息子がやっと帰ってきた。」



久しぶりに再会した息子にそれだけ言葉を発すると、テーブルに置いていた競馬新聞を手に取って睨み始めた。



「ババア…倒れたんじゃねーのかよ!」



そんな俺の言葉など知らぬ存ぜぬで、鼻歌交じりに第八レースの欄を赤ペン片手に見入っている。


「坊ちゃまもご一緒に紅茶でも如何です?」
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