なんでも屋 神…第一幕
それを考えれば、[三谷組]がこのアコードに懸賞金を掛けてもなんら不思議は無い。



なんせ一ノ瀬の天文学的な借金は、人生が何回あっても増えはするが減る事は無いのだ。



そして、[三谷組]にとってはそれだけ美味しいカモという事になる。



[三谷組]も表の顔は普通の街金を装って仕事をしているので、たかが二千万で屋台骨は揺るがないだろう。



真夜中の山道は、ポツリポツリと離れた場所に立っている古びた水銀灯が、その寂しさをより一層強調させる。



すれ違う車は数えられる程度。アコードのヘッドライト付近とフロントガラスには、羽虫や蛾の交通事故死亡被害が、粉雪のように積もっていく。



少し緊張の取れた俺と松は、他愛ない会話を一言二言交わし始めた。男同士の会話は、昔となにも変わらなかった。近況報告から始まり、女、車、バイク、揉め事…そしてまた女。変わった点と言えば、ガッコの話しが仕事の話しになったのと、思い出話しが増えた事か…。



松は俺にマイアミでの事を聞きたがったが、俺は貝のように口を閉ざした。




思い出に浸るのは、爺になって死ぬ間際の五分もあれば十分。これが、無くしてしまいたい過去から、マイアミに逃げた俺がたどり着いた答えだった。
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