WILD ONE ~キミに夢中~
バスに乗り、家に帰るとトモ婆ちゃんが『ケーキは作れんかったよ』と言う。

誕生日だって覚えていてくれただけで嬉しいのに。

本人さえ忘れてたような誕生日なのに。

すまなそうな婆ちゃんに胸が痛む。

別にいーよぉ、と明るく答えるつもりで覗いた居間のちゃぶ台には──

大きな緑色の蒸しパン。

鮮明な若葉色が色褪せた視界に眩しい。


「そんで勘弁してくんろ?」

トモ婆ちゃんはニッと笑う。

婆ちゃん……。

婆ちゃん、ケーキなんて焼いたことないってマユミさんが言ってたのに……。

『オーブンは分からんけどよ~、蒸し器なら出来んだよなぁ』とか

『抹茶なんてハイカラだろ?隣の海老原さんがな──』なんて話し続ける婆ちゃんに、

ありがとうって言いたいのに、奥歯ら辺がツーンと痛くて、喉も何かがひっかかったように痛くて。

「あれま、恐い顔して。何か学校であったんか?いじめられたか?」

と逆に心配されてしまった。
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