ブラッティ・エンジェル
「本気で言ってますの?」
「ウスイが言いたいことは、わかります。でも…」
「でもじゃありませんわ!ヒナガ!危険ですわ。諦めなさい」
悲しそうに眉を下げているヒナガ。いや、悲しそうより苦痛に顔が歪んでいるようにも見える。
 きっと、ヒナガもわかっていたんだ。わたくしから、わたくしじゃなくても他の天使から、そう言われるのも、人間に恋してはいけないと言うことも…。
「それは、無理です。彼が言ったんです。自分の思いに逆らって生きると、自分を失う、と。だから私は、自分が思ったとおりに、行動します」
ヒナガの顔に、迷いはない。あるのは、希望と決意。
 許されない恋。
 それが、彼女に何を与えるのだろう?
 彼女はどこか変わった。わたくしは、いい方向に変わったと思えない。
 違う。認めたくないだけだって、わかっている。
 今でもわからない恋に、憧れてしまった、自分がいることを。
 ヒナガが羨ましいんだ。
 人間との恋愛は、まだ許しているワケじゃない。
 でも、最近のヒナガは生き生きしてて、綺麗だった。
「でも、人間ですわ」
「だから、1日も早く、ゴールしたいのです」
天使のゴール。それは、心を手に入れること。心を手に入れて、人間になること。
 天使は、人間を嫌いながらも、憧れている。いつか、自分もあの仲間になると。
 天使が人間が嫌いなのは、そこにあった。
 人間は、天使が苦労しないと手に入らないものを当たり前のように、生まれながらに持ち、簡単に汚し、傷つけあい、捨てる。
 だから、人間を嫌いになった。どのみち、自分たちもそうなるのに。
「心を手に入れるには、時間がいりますわ。その彼は、死んでしまうかもしれませんわ。
 生きていても、あなたを待っているとも限りませんのよ。
 人間は、簡単に裏切りますわ」
「それでも、私は走ります」
彼女の意志は、思った以上に堅かった。
 彼女なら、何があっても大丈夫。
 そんな気がした。


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