ブラッティ・エンジェル
ハジメマシテ
 昼のHEARTは以前の賑わいを、戻しつつあった。
 しかし、ゆずが来ることは無くなった。サヨがここでまた、働き出してというもの。
 マスターはサヨが帰ってきたことを喜んでいたが、ゆずはそうでは無かったようだ。悲しいことだけれど。
 HEARTに入ってきたサヨを見たときの、ゆずの顔は驚きに満ちていた。しかし、どこか喜びがあったような気がした。それは、サヨの思い違いだろうか?
 すぐに出て行ってしまったから、真意はわからない。
「サヨ、これ運んで~」
「今行きま~す!」
カウンターで手を振ってるマスターは、大変そうだっだけれど実に嬉しそうだった。
 商売が繁盛してお金が入るからだろうか?それとも、自分のやりたいことが成功したからだろうか?……前者の方だろうと、サヨは笑った。
 だって、聞こえるでしょ。あのマスターの陽気な歌。大儲けって、歌ってるじゃない。
「あそこのテーブルね。よろしく~」
マスターが指差した先のテーブルには、男性が一人寂しく座っていた。
 カジュアルな格好をしていて、イケメンという部類に入るような青年だった。
 目に少しかかる前髪が、どこか原谷希を思い出させる。
「カフェオレになります」
サヨはテーブルに、いい香りを漂わせているコーヒーカップを置いた。
 まだ、きっと仕事が山積みにされているだろうから、いそいそとカウンターに戻ろうとした。
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