ブラッティ・エンジェル
 「なんで、来たんだろ。」
サヨはとある喫茶店の前に、立っていた。高い太陽が眩しい。
 建物を見上げると、『HEART』と看板にペンキで簡単に描かれていた。
「会いたくなかったら、来なくてもよかったんだよね。・・・なんで、来たんだろう。」
サヨは、ため息をつきながら壁に寄りかかる。
 ここに来てから、もう1時間はたった。別に、望が遅いわけじゃない。約束の時間には、まだ三〇分もある。
 サヨは、待ち合わせというものが初めてで、どうしていいのかも、いつ来た方がいいのかわからなかった。だから、待たせては悪いと思い、早い時間に来たのだ。
 その間に、サヨは何回かナンパをされた。しかし、そんなことはサヨの日常だったから、軽く受け流した。
 「やっぱ、ノゾムが気になったんじゃねぇ。」
肩に乗って暇をしていたユキゲが、呟く。
 サヨは、ムスッとした顔をする。
「それ、まるで私がノゾムのこと、好きみたいじゃない。」
「そこまで言ってねぇよ。もしかして、好きなの?」
「はぁ!?」
サヨは、飛び上がる勢いで言う。
 近くで聞いていたユキゲは、うるさいでも言うように耳をふさいでいた。
「そんなこと、あるわけないでしょ!天使と人間だよ。」
「別に禁じられてねぇじゃん。」
「そうだけど。」
そう言って、サヨはうつむく。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「違うもん。天使には、心がない。好きとか、そんな感情ないんだよ。」
「サヨ・・・。」
ユキゲもうつむいてしまう。
 サヨは顔を上げて、悲しげに笑う。
「ごめんね。」
ユキゲは、ただ頷くだけだった。
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