ブラッティ・エンジェル
「ゆずちゃん。了介君のこと、希より好きになってしまったんでしょ」
後ろにいる了介と、目の前にいるゆずの息を飲み込む音が響く。
「そんなこと…ないわ」
「ゆずちゃんも、私と同じ。希に。過去に縛られてるの。
 そして、彼を忘れることを恐れてる。
 でもね、ゆずちゃん。希は過去なの。いつまでも過去に縛られちゃいけないの」
「簡単に言わないでよね!希君は、あたしの全てだったのよ」
「だった、んでしょ。今は?」
ゆずちゃんの泣きそうな目が、サヨの後ろへ向けられる。
「了介君なんでしょ。なんでそれを受け入れられないの?」
「サヨには、わからない!」
「そんなことない!言ったでしょ。ゆずちゃんは、私と同じ」
フンッと鼻で笑い、顔に不敵の笑みをゆずは浮かべた。
「同じ?笑わせないでよ。同じなもんですか。あたしはふられたのよ」
「確かにその点は、私とあなたは違うかも知れない。でも、気持ちは同じだったはずよ」
「なんて馴れ馴れしいの?」
「逃げてるだけなのよ」
ゆずの不敵の笑みが消える。
「私たちは、逃げてるだけ。今から」
「今から…、逃げる?」
「後ろを振り返ってばっかりで、前を向こうとしないの。進むことを、拒んでるの。決して、逃げられないのにも関わらずに」
「…」
ゆずは俯いてしまって、表情が見れない。
 あの時の私を見ているようだった。望を希と重ねていたことに気づいた時、自分の気持ちに気づいてしまったときの私に。
「私たちの過去が強烈すぎるだけなの」
望の受け入れだけど。でも、そう考えると、気持ちが軽くなる。
「ゆずちゃん。今を生きてみない?」
ゆずちゃんが自分の顔に手を動かす。涙を拭いている様。
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