ブラッティ・エンジェル
いってらっしゃい
 サヨは何年ぶりかのヒナガの部屋にいた。白を基調にした、清潔感と冷たさがある寂しい部屋だった。
 以前来たのは、何年前だっただろうか?
「あら、サヨではありませんか。どうしたんですか?あなたが私を訪ねてくるなんて」
クスクスと可笑しそうにヒナガは笑いながら、席を離れた。その際、なにかをそっとしまったように見えた。大切ななにかを。
 いまだに上品に明るい笑い声を上げているヒナガを、サヨは強い眼差しで見つめた。
「星司の事だよ」
サヨの言葉をうけたヒナガの顔は一瞬に、驚きに変わった。目を見開き唇を震わせていた。
「星司、ですか」
声色が明らかに平静を保っていなかった。そうとだけ呟くと、ヒナガはなにかを抑えつけるように目を閉じた。
 その姿に、サヨは胸が締め付けられた。
 こんなにも想い合っているのに。
「マスターが、会いたいって」
「それは、無理です」
即答するヒナガ。なにも考えたくないとでも言うように。
 しかし、サヨは引き下がるわけにはいかなかった。それが誰のためなのかは定かではなかったが。
 席に戻ろうと、ヒナガはサヨに背を向けた。
「どうして!?マスターに会いたくないの?」
「お帰りになって!」
まるで、子供のような叫びだった。ヒナガは恐れているように肩を震わせていた。その肩に置かれた手も、酷く震えていた。
 サヨは言い返す言葉が見つからなかった。気持ちがわかるから。そんな事言うと怒られてしまうか。
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