ブラッティ・エンジェル
 すると、セイメイの顔からすっと笑顔が消え失せ、ぞっとするような瞳が覗く。
「言ったはずだよネ。チャンスは今しかないって。手遅れになっちゃうヨ」
セイメイの顔にはいつもの笑みが戻っていた。しかし、オーラはそれはとてつもないものであった。
 星司は思わずギュッと目を閉じた。ギリギリと拳の爪が皮膚に食い込んでいく。
「正直言って、ボクは十分生きたから消えてもいいんだよネ。ウスイはどうか知らないけど」
星司はいったいなにをセイメイが言っているのか、わけがわからなかった。しかし、そんな事は今の星司には聞き流すべきつぶやきだった。
 ただ自分にどうしたいか問いかけて、自分の気持ちを知るのが大事な事だった。
「ウスイ、嘘はいけないネ。折角ユキゲと仲直りができたから、そばにいたいんでしょ」
ケラケラとセイメイはなにかを笑っていた。いったい、なにと話しているのだろう?ウスイとはいったい何なのだろう?
「ボクかい?ボクはいいんだヨ。サヨチャンが幸せになったからネ。見込みもなくなちゃったし」
あのセイメイが、切なそうな笑みをした。しかし、どこか満たされているようにも見える。アイツもあんな顔をするんだと、星司は驚いていた。
「話を広げたのはウスイじゃないか。わかってるヨ」
セイメイは星司に視線を送ると、ニッコリと笑った。思わず、星司は後ずさった。
「答えないならそれでもいいヨ。元々あの手紙は返信不要だしネ」
セイメイはドアノブに手を置いた。背を向けられて、表情が見えない。
「疲れたから、ボクはもう来ないヨ」
店内に眩しい太陽の光が差し込み、星司ははっとした。
 しかし、顔を上げて口を開いたときには、ドアは閉じていた。
 やっと出た答えは、手遅れになってしまった。
 まだ、心は決まってないけどヒナガと直接話したい。会わせてくれ。
 どうして、最初からそれが思い浮かばなかったんだ?
 思っていることを全部ヒナガに話せば、なにかが変わったかもしれない。それが矛盾したことでも。
 悔しさから、星司はカウンターに拳をたたきつけた。
 ダンッという音が、静かな店内に響いてはすぐに消えていった。
 と、そのときドアベルが荒々しく鳴った。
 太陽の光が、もう一度店内に差し込んだ。
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