ブラッティ・エンジェル
 ユキゲは天界のありとあらゆる場所を飛び回っていた。とある人を捜し回って。
 今すぐにでも、聞き出さなくては。そいつが知らないなら調べるのみ。サヨについて、今すぐに。
 庭園に珍しい銀髪が目に入った。
「いた!」
ユキゲは獲物を見つけた野鳥のように、その人物の方に飛んで行った。幸運にも、その人物は一人だった。
 自分にもの凄い勢いで飛んでくるなにかに気がついたウスイは、反射的に近くにあった小石を投げつけた。もちろん、それは見事命中。ユキゲの眉間のど真ん中にぶつかった。
「え?ユキゲ?」
目の前で痛そうに悶えている人物に、ウスイは目を丸くして投げようとしていた小石から手を放した。小石と言っても小さい見習い天使にしては手のひら大のものだった。
 自分がしたことを自覚して、ウスイはポケットからハンカチを取り出すと、近くにあった噴水で濡らす。絞りながらユキゲに近づくともの凄い形相で睨んできた。
 さすがに罪悪感が生まれた。しかし、そこで謝らないのかウスイだった。
「自業自得ですわ。後ろからあんなスピードでなにかが来ましたら、防衛本能が働いても文句は言えませんわよ」
呆れたようにぐちぐちと言葉を並べるウスイは、小石が当たって熱を持っている場所にハンカチを当てた。そのときに頬を若干染めごめんなさいと謝った姿をユキゲは見逃さなかった。
 なぜが胸がむず痒くて、気分が悪くなった。手が触れないように心がけながらハンカチを自分で押さえる。離れていくウスイの手を見つめていたことには気づかなかった。
「で、わたくしになにか急用でもありましたの?」
ウスイのそのつぶやきにユキゲは流されかけていた用事を思い出して目を見開いた。その反応にウスイは若干眉を寄せた。ただ事じゃないのを察した。
「最近サヨ、なんかやらかしてねぇか」
「サヨですの?わたくしは知りませんわ。記憶の間では過去の記憶しか見ていませんので」
ウスイの言っていることは事実だろう。目が泳いでいない。隠しているようにも見えない。
 それならと、ユキゲはウスイの腕を掴んで飛び出した。
「記憶の間でサヨになにがあったか調べるぞ」
「あ、はい」
「嫌な予感しかしねぇんだ」
こんな時なのにウスイは掴まれた腕から真っ赤になっていった。しかし、ウスイは嫌な予感と言われた瞬間、緊張が全身を駆け巡った。

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