ブラッティ・エンジェル
「ところで、魔王。ちょっとやっかいな魂がきてね。とりあえず、死神にしておいたよ」
「ふ~ん。どんなやつなの?」
セイメイは、天井を仰ぎ見ながら興味なさそうにつぶやく。
 死神。懐かしいなと、思った。もう、見知った顔も少なくなっているのかもしれないな。
 死神は、自ら命を絶ってしまった魂。そして、罪を犯した天使。前者はそのために傷ついた魂の修復の時間。後者は罪を償う時間。それを束ねていたのがセイメイだった。いない間はどうしていたのだろう?
 死神はその後、天使見習いになる。不思議な話。魂は一緒のくせに、見た目、性格は昔とは違ってしまう。記憶もなくなってしまう。だから、天使達は自分が何回目か知らない。覚えているのはセイメイと神ぐらい。
「君の方が彼に関しては詳しいと思うよ。ノゾムって言うんだ」
だるそうにしていたセイメイが、飛び起きる。
 神の口から出てきた名前には聞き覚えがある。それどころか、さんざん聞いた名前だった。
「希望の希の方」
セイメイはソファから立ち上がる。脳裏に浮かぶ、無邪気な子供のような人間。
 すたすたとセイメイは何もない空間に歩いていく。今は神と同等に力を手に入れているから、ここから出るのなんて容易い。
「いってらっしゃい。魔王」
「ボクは、セイメイだヨ」
名前のなかった魔王にヒナガがつけた名前。大切な人たちが呼ぶ名前。魔王は天使に墜ちた時からセイメイになったんだ。
「僕は呼ばないよ。君は魔王だもん。君だけ名前があるなんて、ずるいし」
「じゃあ、ボクがつけてあげるヨ。それなら、問題ない」
「君が?そうだね。じゃあ、君のセンスに任せるよ」
「ああ」
セイメイはそれだけ言うと、部屋から去っていった。
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