ブラッティ・エンジェル
 しかし、
「延ばさない」
「どうして!」
サヨは、予想外の展開に驚く。ユキゲもまた、あり得ないものでも見るように、望を見た。
 望は、ゆっくりと顔をあげ、また母の姿を見る。
「寿命なんだよな?」
「そうだけど。延ばせるんだよ?」
望は、首を横に振った。
「延ばさない方が、いいんだよ。」
「っ!」
サヨは、穏やかに悲しそうに微笑んでいる望の頬を力一杯叩いた。
 そのときのサヨの顔には、怒りがありありと表れていた。
「この薄情者!」
サヨはそれだけを言い残して、早足で病室を出て行った。
 刃のようなサヨの言葉を受けた望は、ふらふらと母のベッドの横に行くと、糸を切られた操り人形のように、すとんとイスに腰を下ろした。
 うつむいているためその表情は見えないが、すすり泣きの音が聞こえて泣いていることがわかった。
 ピッピッピッ
 心電図の機械音がやけに大きく聞こえる。
 ピッピッピッピ―
 甲高い機械音が、彼女の死を告げる。
 それを見届けたユキゲは、彼女の上へ飛んでいき、ポケットから透明な小さいガラスを取り出した。ちょうど、サヨのネックレスに埋め込まれているガラス玉ぐらいだ。
 ユキゲがそれをかかげると、まぶしい白い光が瞬いた。
 すると、ガラス玉がシャンパンのような綺麗な琥珀色に染まった。
「じゃぁな」
ユキゲは静かに病室を出て行った。

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