ブラッティ・エンジェル
 うわぁ・・・。
 サヨは、感嘆の声しか出てこなかった。そんなサヨを、ユキゲは据わった目で見つめる。
 少年の眉と瞼が、震える。
「あ、起きた。」
ユキゲはそう言って立ち上がり、小さな翼でまだボケーとしているサヨの肩に乗る。
 「!天使・・・!天使は!?」
少年は飛び起き、叫びながら辺りをきょろきょろ見渡す。ハムスターかなんかみたいだ、とユキゲは頬杖をつきながら思う。
 バチッと目が少年と合い、サヨはハッとする。
 逃げなきゃ!
 そう思うのに、少年を観察してしまう。
 黒なのに明るくて、つやのある髪。どこまでも深く、吸い込まれそうな澄んだ黒目。子供らしい服装は、彼にぴったりだった。歳は、サヨの外見年齢ぐらいだろう。
 天使は歳をとらない。成長しない。故に、天使に生まれ変わったときから姿は変わらない。サヨだって、外見年齢の倍以上は生きていた。
 サヨは気持ちと裏腹に、少年を見つめたまま動けないでいた。見惚れていたのだ。
 何十年も生きていて、こんなことは初めてだった。
「天使、だよな。」
少年の少し高いめの声をきいて、サヨの思考は動きだした。
 こいつ、噂の・・・!
 天界で今、一人の人間が噂になっていた。今日も天界を出るとき、耳にした。
「まったく。人間のくせに翼が見えるなんて、イヤだわ〜。」
「同意。メンドーなだけ。早く死なないかなぁ。」
「天使がそんなこと言って、どうする。でも、わかるかも。」
「でしょ〜。絶対、魂を迎えに行きたくない〜。」
「それはダメだろ。」
「いーの!生意気な魂が、また生まれないようにしなきゃ。」
< 4 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop