ブラッティ・エンジェル

禁忌

 眩しいと思ったら、朱い飛沫が舞った。
 けたたましい騒音と悲鳴。
 私の血じゃないことはわかったけど、悲鳴はどっちのものかわからなかった。
 つないでいたはずの彼の手は、いつの間にか離れていた。
 何が起きているかは何となくわかっていた。でも、認めたくないせいか彼に駆け寄ることも、見ることも出来なかった。
 どうしても、振り向きたくなかった。
 自分が薄情者の冷血だったら、どんなに良かったんだろう。
 でも、現実は現実だ。
 振り向いたら、そこには現実があった。
 電柱にぶつかって潰れた車。その近くで放り出されている真っ赤に染まった希。
 希がひかれた現実が。
「希!」
どうしてこうなったのかわからない。
 私は彼に歩み寄った。まだ息はある。奇跡だ。
「サヨ。僕、死んじゃうのかな」
今にでも消え入りそうな声。どこから溢れているのかわからない血。
 私の頭はショート寸前だった。
 彼を失いたくない。けど、私にはなにも出来ない。
 ふと、私の頭にあることがよぎった。
 私なら、否、天使なら彼を失わなくてすむ。これしかない。
 でも、禁忌…。
「死にたくないよ…」
私は息をのんだ。
 迷ってる場合じゃないんだ。
 自分がこんな人間のためにここまでの覚悟をするのか、わからない。
 心があったならわかったのかもしれない。
 息を深く吸い込む。
 瞬間、辺りが青い光に包まれた。
 それは1秒ほどの間だった。
 再び光の中から現れた彼は、まるで死んだように寝ていた。
 少し、不安になった。
 震える手を口元に持って行く。するとくすぐったい息がかかった。
「よかった」
安堵の息が漏れた。じわっと涙もあふれてきた。
 本当に良かった。こんなに嬉しいこと、今まであったかな。
 ふっと体の力が抜けた。ふらっと視界が揺れる。
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