ブラッティ・エンジェル
「サヨ!」
「え?」
私は地面に手をついて体を支えた。パシャッと音を立て血が少しはねた。
 声がした方を振り向くと、そこには驚いた顔をしている小さな天使がいた。
「ユキゲ、帰ったんじゃ…」
「おせぇから心配してきたんだよ。それなのに」
ユキゲは目をつり上げた。
「なんだよ、これ!お前、禁忌を犯しやがったな!」
「これは…」
「んだよ!言い訳なんか聞きたくねぇ」
「ユキゲ」
こうなるとはわかっていた。承知のうちでやったことなんだ。
 でも、何だろう、辛い。
「サヨ、天界に帰れねぇぞ」
「うん。知ってる」
「知っててどうして…!」
はっとユキゲは息をのんだ。
「ごめん」
悲しそうな顔をしてユキゲはうつむいた。
 ユキゲとはずっと一緒で、パートナーで、親友で、家族みたいなものだったから、離れるのは寂しい。
 でも、今は希の方が大切。一番って言ってもいいくらい。
「帰らねぇのか」
「うん。帰られないし。希といたい」
私は眠っている彼に手を伸ばす。
 この人間が愛おしい。この人間と生きたい。この人間と同じ世界を見たい。
 でも、彼は私が心のない天使だと知ったらどうするんだろう。
 それだけが、気がかりだった。
「わかったよ」
彼ならわかってくれると思った。
「上には言わないでおく」
「ありがとう」
飛び立っていく彼の背を何とも言えない気持ちで見送った。
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