ブラッティ・エンジェル
話そう
 あの事件から、もう一ヶ月は経っただろう。
 もっと長かったような感じもするし、短かったような感じもする。
 サヨは望に会っていなかった。
 不思議にも、地上と天界で連絡を取り合える携帯には、彼の着信がずらりと並んでいた。 一回も出たことのない着信履歴。未開封の受信メール。聞いたことのない留守電。
 いくら、通話ボタンを押そうとしたことだろう。
 いくら、開封しようと思ったことか。
 いくら、携帯に耳を当てようと思ったことか。
 でも、気持ちと裏腹に体は動いてはくれない。
 通話ボタンに置いた指は硬直し、画面に向けていた目は逸れ、耳に持って行こうとする手は震えが止まらない。
 着信音と気持ちがおさまった後には、じっとりと汗が噴き出していたことに気づき、喉と目の奥がヒリヒリしていた。
 あぁ、ダメだ。この臆病者と、サヨは一人でいつも悪態をつく。
 そもそも、何を話すべきなんだろう。何を話さなければいけないんだろう。
 謝罪?何を?母親のこと?希のこと?
 感謝?自分の過ちを止めたことに関して?
 別れ?もう会いたくないって?
 会いたくないワケじゃないんだ。とっても会いたい。会って、前みたいに話せたら、楽しいのかもしれない。
 でも、このままでは会えない。
 何かが、引っかかっていて…。
 今会ってしまったら、今度こそ、本当に壊してしまいそう。
 サヨと望の関係。望自身。そして、サヨ自身も。
 自分が何をするべきなのか、わからない。
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