ブラッティ・エンジェル
「セイメイ、私、どうしたらいいのかな?」
サヨは、うつむいて前髪をくしゃっと握った。
 自分がなんなのか、どうやって生きていけばいいのか、わからなくなった。
 知らなかったほうがよかったものを、知りすぎた。知りすぎてしまった。
 きっと、まだ知らなきゃいけないことがあるだろうけど、これ以上知ってしまったらサヨ自身が、押し潰されてしまう。
 そっと、少しでも力を入れると壊れてしまうものでも扱うように、セイメイは優しくサヨを抱きしめた。
「それは、サヨチャンが決めなきゃいけないヨ。でもね、ボクは雨宮望からは離れた方がいいと思うよ」
サヨは、少し黙った。
 そして、そっと目を閉じて抱きしめ返かえした。
「独りはイヤなの。セイメイが、私の傍にいてくれる?」
それだけ言うと、サヨの目から涙が一筋、滑り落ちた。
 セイメイの目が、すっと細められた。
「いいヨ。プリンセスが望むなら、ナイトはどこまでもついて行くよ」
そっと、触れるサヨの頬を冷たかった。涙に濡れた目は、どこか虚ろ。
 上を向いたサヨの顔に、ゆっくりと顔を近づけたセイメイ。
 渇いたサヨの唇に、セイメイの震えた唇が優しく重なる。
 何も知らない人が見たら、これはどんなに甘いハッピーエンドだろうか。

 「わかりましたでしょ。サヨにはもうセイメイがいますの。邪魔をなさらないで」
物陰に隠れて二人の様子を見ていた望は、驚いたように目を見開き、二人から目を離せない状況だった。
「これで全部、うまくいきますわ。もともと、天使と人間が結ばれるなんて、有り得ないことですもの」
「ねぇ、本当にサヨは幸せなの?」
望の声はかすれていた。
 それもそうだろう。好きな相手が、目の前で違う男性と抱きしめあって、キスをしているのだから。
「えぇ。今のような、辛い思いをせずにすみますわ」
望は下唇を噛みしめて、近くの壁を力一杯殴った。手がジンジン痛むのも、感じなかった。
 そして、一言。
「ありがとう。ウスイ」





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