-roop-

触れた唇

---------
-------------------


砂浜を駆け抜ける夕方の潮風は、思っていたよりも少し冷たかった。

此処が…千夏さんと誠さんの…想い出の場所…。



「あちゃーやっぱ曇ってんな~。星見えねぇや~」


波際に歩みよりながら誠さんがそう零す。

寄せては返す波の音が、次第に近づいていく。

そのほんの少し後ろを歩きながら、私も空を見上げて残念そうに呟いた。


「…ほんとだー…」


少し深みを増した夜空には、淡く灰色の雲がかかり、星は見えていなかった。

やっぱりか~…

とでも言うように、空に向かって背伸びをする誠さんに、私はそっと話し掛ける。



「……でも明後日は……絶対星…見れるよ…」


誠さんは両手を空に伸ばしたまま、私の方を振り向いた。

重なった視線を感じながら、私はもう一度口を開く。




「結婚式の日は……絶対、いーっぱい星…見えるよ!」


そう笑顔で言う私の頭を、誠さんは嬉しそうに撫でる。


「…あぁ……そうだな!」


優しく微笑む誠さんの隣にそっと寄り添った。



大丈夫…

きっと明後日は…その日だけは絶対に満天の星空が広がるよ…?


だって空にいる千夏さんが…

絶対にその日の空を曇らせたりなんてしないだろうと

私は本気で思った。
< 186 / 293 >

この作品をシェア

pagetop