-roop-

ベランダの隅の小さなテーブルに置かれた赤い箱とライターが目に止まった。

手に取って中を覗くと、まだ一本だけ残っている。

私はその最後の一本を口にくわえ、火を点ける。


そして吸い込んだ煙を…静かに空に吐き出す。

青い空に細い灰色の筋が流れた。




「…なんだ……私吸えるじゃない……っ……」




煙が目にしみて…涙が流れた。




『クククッ…はい、没収~』




「……っ………」


震える指で、また煙草をくわえる。



『最期の…一本か……』



違うよ千夏さん…

これが…


これが「最期」の一本だよ…。



私は空の向こうの千夏さんに届くように、空高く煙を吹いた。

灰色の煙は、温い夏の風にさらわれて、何処かへ消えていった。


もう短くなってしまった煙草。




『熱くなんてないよ…?……これは肉体なんかじゃないからね…』




私は少し笑った。

今の千夏さんが…私がやったら大火傷だよ…。


肉体として夏の空気を感じながら、私は灰皿の中に短くなった煙草を押し付けた。

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