-roop-

風間の驚いた表情を見ると、誠は理性を取り戻し、俯いた。



「そんなわけ…ありません……確かに…記憶がないっていうのは…辛いですけど…ですけどっ」


顔を上げた誠は、風間の両目をしっかりと見据えていた。



「…それでも俺の千夏への想いは変わりません…!!目を…覚ましてくれただけで…生きて会えただけで俺は…っ」


風間は、声を詰まらせる誠の肩にそっと手を載せた。



「…だったら…今の…記憶のない千夏さんを…そのまま受け入れてあげてくれますか…」


「先…生…」


風間は穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を続ける。



「…千夏さんが……自然に思い出す日が来るまで…待ってあげてくれますか……?
今…一番恐怖を感じているのは千夏さん自身です…
急に他人の話を聞かされて自分だと言われても…余計に千夏さんを混乱させてしまう…」


誠はじっと風間の目を見つめた後、静かに頷いた。




千夏が事故に遭ったとき、血相を変えて病院に飛び込んで来た誠。

意識が戻らない間も、毎日毎日病院に通い詰めた誠。



『先生、この日、俺たち二人で結婚式するんですよ』


頬を緩ませながら、赤いマーカーでカレンダーに印を付ける誠。



そんな誠のことを思うと、思い出させるな、というこの要求がいかに彼にとって酷なものなのかと、風間は胸を痛めた。




風間は誠の肩をグッと掴む。


「…大丈夫です……柏木さんの想いは…必ず千夏さんに伝わります…」


「…は…い…っ」


涙を堪えて頷く誠を切なげに見つめた。



風間が静かに席を立とうとすると、白衣がグッと引っぱられた。


「あのっ…」


風間は再び誠の方を振り返る。



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