-roop-
ふと部屋を見渡す。
煙草の煙で少し黄色くなった白い壁。
この部屋で千夏さんと誠さんは、肩を寄せ合って笑いながら…あのマルボロを吸っていたのだろう…。
「……?」
ふと一カ所だけ、元の壁の白さを守っている部分があった。
雑誌程の大きさの綺麗な長方形の形が、くっきりと浮かび上がっている。
近づくと、その長方形の上に画鋲の後があった。
あ……カレンダー……。
きっと二人の想い出がたくさん書き込まれたカレンダーが、ここには貼付けてあったのだろう。
そしてそこにもきっと、一際目立つ赤いハートの印が付けられていたに違いない。
『無理して…思い出さなくていいから』
他にもこの部屋には、二人の写真といった想い出を象徴するような物は、何ひとつとしてなかった。
昨日…急いで片付けたのかな…。
想い出の品を片付ける彼は…どんな気持ちだったのだろう…。
一人カレンダーを外す誠さんを思い浮かべると、少し胸が痛んだ。