-roop-

ふと視界に入った誠さんの姿。



そして部屋に戻ろうとしたとき…誠さんは握りしめた赤い箱をじっと見つめて、ゆっくり俯き、呟いた。




「…………千夏………っ」




ドクンッ


暗いベランダで、手摺りに顔を埋める誠さんの姿が…胸に突き刺さった。


咄嗟に後ろに下がる。




……胸が苦しい…




私は…私は本当に来て良かったのだろうか…?

余計に彼を苦しめてるだけじゃないのか…?



綺麗な想い出を抱いたまま離れるのと、何ひとつ覚えていないのに傍にいるのはどっちが辛いのだろう。


ねぇ千夏さん…これも…比較しても答えは出ないの…?




煙草の箱を握り潰す音が響いた。

私はやりきれない気持ちのまま、そっと真っ暗な寝室に戻った。

< 86 / 293 >

この作品をシェア

pagetop