空色幻想曲
 今は英雄と呼ばれるカイザーも、最初は俺と同じく王女の親衛隊長だった。元々はダリウス殿が務めていたが、騎士を引退するときに後継としてカイザーを推薦したのだそうだ。

 もちろんティアニス王女はまだ生まれていない。女王の王女時代の話だ。
 当時、王女は二人いた。
 双子でありながら異なる色の髪と瞳を持ち、その容姿から

“太陽姫”と“月姫”と称された。

 クレツェントは【慈愛の女神】が守護する国だからか、王女は神聖視される傾向にあるらしい。
 今のティアニス王女のように……。

 ちなみに月姫と呼ばれたのは、現女王のこと。
 そして太陽姫と呼ばれたのは──

「──ライラ様は、ティアニス様に負けず劣らずのはねっ返りでな」

「本当ですか……」

 目を細めて語られる昔話に軽く顔をしかめた。

 ライラ王女──といえば二十年前、魔族にさらわれて殺された悲劇の姫としてあまりに有名。噂では大層美しい姫だったらしいが、はねっ返りだとは聞いたことがなかった。

 ティアニス王女のジャジャ馬振りは遺伝だったということか?

「剣こそ振り回しはしなかったがの。しょっちゅう城を抜け出しては、カイザーが捜し回っておったわ」

 身につまされる話だ。かつての英雄に同情の気持ちが湧いた。
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