空色幻想曲

†昔語り†

「では、ティアニス王女を捜せと?」

「うむ。全く……今は帝王学のお時間だというのにどこへ行ってしまわれたのか……」

 鍛練場を出てすぐの回廊で、渋い顔をしつつ用件を話してくれた。
 聞けば、ティアニス王女が勉強をサボって行方を暗ましたという。
 本当に、とんだジャジャ馬姫だ。

「王女がよく行かれる場所は?」

「王宮の案内図に印をつけておいた。これを手掛かりに捜してくれんか」

 (ふところ)から一枚の折り畳んだ羊皮紙(ようひし)を差し出してきた。
 ……用意がいいな。こういう状況は初めてじゃなさそうだ。

「隊員には知らせないほうが良いのですか?」

大事(おおごと)にはしたくないんじゃ。臣下に示しがつかんじゃろ」

 確かに。単なるサボりを理由に隊員総出で捜し回ったら、示しも何もあったもんじゃない。

 だが、この広い王宮を一人で探すのは少々骨だ。
 ダリウス殿は察して言葉をつけ加える。

「協力を頼むなら、副隊長か、一から三番隊の小隊長くらいに(とど)めておいてくれんかの?」

「承知しました」

「隊員は三十人余りおるが、王女を一番そばで護るのは隊長のお前さんじゃ。王女の行動パターンを知るのも務めのうちと思うて頑張ってくれ」

 副と小隊長までなら協力を仰いでも構わない……か。

 レガートはともかく、一番隊の小隊長はベンだ。他の小隊長とも面識がある程度で、俺の言うことを素直に聞くか、はなはだ疑問だ。
 思案していると、急に「ほっほっ」と楽しげな笑い声が聞こえた。

「何か?」

「いやいや。お前さんを見てると、カイザーの若いころを思い出してな」

「…………」

 目尻にしわを寄せて遠くの景色を見るように語り始めた。
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