空色幻想曲
「それはこちらの台詞ですぞ! ティアニス様!!」

 逆の隅にいた人物が怒りをあらわにして王女に詰め寄った。

「!? じ、じいや!!」

 そう。この部屋はダリウス殿の執務室。
 城中駆け回ったのはここに誘い込むと気づかれないよう、疲れで判断力を鈍らせるためだった。

 ダリウス殿は突然入ってきた俺に驚きつつも何かあるのだろうと黙って様子をうかがってくれていた。流石だ。

「お勉強をサボったばかりか一国の王女が扉を蹴破るなどというはしたない真似をなさるとは、今日という今日は許しませんぞ!!」

「そ、そんな……」

 ダリウス殿の剣幕に彼女の勢いがみるみる(しぼ)んでいく。

 ……凄いな。

 こんなダリウス殿は初めて見る。背後に炎のような怒りのオーラが見えるのは気のせいだろうか?

「では、俺はこれで」

 扉の下敷きになったマントを拾い上げ、短く挨拶した。火の粉が降りかかる前に退散しなくては。

「おお。御苦労じゃったな、リュート」

「お、覚えてなさいよ~」

 俺をじと眼で(にら)みながら三下の決まり文句を吐いた。

(どこのチンピラ王女だ)

 三十六計逃げるに()かず。
 素知らぬ顔で執務室を後にした。

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