空色幻想曲
「乾かすから服を脱げ。風邪をひく」

「か、乾くまでハダカでいろっていうの!? そっちのほうが風邪ひくじゃない!」

「これを貸してやる」

 飛び込むとき脱ぎ捨てたものを差し出した。マントは立派な防寒具になる。ハーフだから丈は短いが彼女には充分な大きさだろう。

「あなたはどうするの?」

「俺は焚き火にあたればすぐ乾く」

「じゃあ、私も……」

「お前はずぶ濡れだ。脱げ」

「……な、なんにもしないでしょうね?」

 頬をほんのり桃色に染めて上目遣いで伺ってきた。

 ……そういう警戒は誘っているのと同じなんだがな。

 この王女は、己の仕草がどれほどの破壊力を以って男心を揺さぶるか、全く気づきもしない。意地悪もしたくなる。

「期待に応えてやろうか?」

「バ、バカ!! いい? 私の半径1m以内に近づかないでよ!?」

「いいから。俺はあっちを向いている」

 そっぽを向いて(たきぎ)を手早く集めると、彼女も茂みの奥に行って着替え始めたようだ。

(……えーっと…………とりあえず邪念を捨てねば。
『天に召します我らが全知全能の神、創造神ウォルスよ、我らに生を与えたもうて……』)

 心の中で聖書の序文を読み上げた。信心深くないから途中をかなり端折(はしょ)ったけれども。何度か繰り返すうちに着替えも無事に終わったようだった。
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