空色幻想曲
 幹の陰から恥ずかしそうに姿を見せた。

 俺の腰下までしかないマントでも、彼女がまとうとひざ丈のワンピースのようだ。裾から白い素足がチラリと覗いている。

 ……やばい。直視したらやばい。さっき読み上げた聖書なんかまるで意味をなさない。
 俺は焚き火の(だいだい)色だけを見つめた。

 しばらくして、炎の向こうでまた小さなくしゃみ。

「寒いか?」

「まあ、そりゃね。仕方ないけど」

「火を強める。少し焚き火に寄るといい」

 うなずいてそっと気配が近づく。甘い色香がほのかに薫った気がして、つい、いたずら心が顔を出した。

「なんなら人肌で……」

「けっこうよ! あなた、そういうこと、だれにでもするんでしょ!?」

「人聞きの悪いこと言うな」

「だって、すごく慣れてそうだもの! このむっつりスケベ!!」

 いつの間にやら凄い誤解をされている。

 賭けの一件が原因だろうが、不可抗力でちょっと胸を触っただけじゃないか。

 ──……いや、『ちょっと』か?

 自分の思考に自ら待ったをかける。
 よく考えれば心地の良さに結構長いこと触っていた気もするので、スケベと言われれば否定はしないが、誰にでもあんなことをすると思われるのは非常に心外だ。

 女の胸を触ったのなんてあれが初めて……いや、そういえば子供のころ、ユリア姉さんと風呂に入って触ったことがあったか。でも一回きりのことだ。

 あのときは子供だったからスケベ心ではなく、自分と体の構造が違うことが不思議で触ってみただけだった。

 姉はビックリしていた。その後で「男の子が女の子の胸を無闇に触るものではないのよ」と、やんわり叱られた。

 以来、言いつけは守って清く正しく生きてきたのに。まあ、この前うっかり破ってしまったが。

 とにかく誤解だけは解いておかねばなるまい。

「俺は女には縁がない」

「ウソばっかり! あなたの年齢と容姿で女の人と関わりないわけないでしょ!」

「本当だ。生憎、士官学校は男ばかりで色事には縁がなかった」
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