空色幻想曲
「あなたが築いてきた“強さ”は、たった一日休む程度で崩れ去るものですか」

 背に掛けられた言葉は普段通りの、おだやかさで。
……それなのに胸の奥を容赦なく貫いていった。

「何を焦っているのか知りませんが、医療なら完治に一月かかる傷が一日休むだけでいいのです」

 次の言葉は、凍りついた俺の背中を絹の毛布でふわりと包み込むように温かい。

「血が流れていればわかりやすいですが、目に見えない痛みは、顔や声に出さなければ誰も気づいてくれません。自分でいたわってあげるしかないんですよ」

 それは嘘だ。
 どんなに隠しても隠しても、見透かしてしまう者がいる。

 あんたも。
 俺が超えるべき男も。

 見透かし、思いやり、叱咤(しった)し、(さと)す。

 そんなことができる人間のほうが少ないだろう。そんな人間に何人も出会える可能性はもっと少ないかもしれない。

 それをわずらわしく思うのは、己が……小さいからだ。

 堅く握っていた拳をゆるめる。
 せつなる祈りを捧げているような慈悲深い瞳が、じっと、見上げていた。
 それをどこか、懐かしい……と感じながら

「……わかった」

 ゆっくり、うなずいた。

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