空色幻想曲
「ベン。あなたの身長は175㎝であっている?」

「え? はい」

「じゃあ、東南東の方角、あなたから見て右斜め上14.7°、32m先に魔族がいるわ。枝のすき間は直径10㎝もないけれど、あてられる?」

 闇姫の明瞭な言葉にやや面食らった。彼には周囲の景色にどれだけ目を凝らしても、暗幕が垂れ下がっているだけに見える。

 しかし今は、この妖しい真紅の瞳を信じるしかない。

「直径10㎝の的なら広いですよ……私には」

 長い弓がしなる。弦が、限界だとばかりにキリキリキリキリ悲鳴をあげる。薄紫の眼光が鋭く前を見据えた。

 狙うは東南東、斜め上14.7°、32m先へ──

 解き放つ。
 一分の狂いも迷いもなく。

 放たれた矢は乾いた音を立てて目の前の暗幕を突き破った。

「あっ……ま、魔族の気配が一つ消えました!」

 少し離れた場所でロキが叫ぶ。

「まず、一人」

「さっすが、ベンだな!」

 友の勇姿をアルスが口笛を鳴らしてはやし立てた。

「アルス、余所見(よそみ)するな!」

 どこからともなく土石流(どせきりゅう)が三人を目掛けて襲ってくる。
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