空色幻想曲
 思わず口元がゆるんで、フッと短い息を吐き出す。

「……変なお姫様だな。お前」

「あなたもかなり変な騎士よ。王女に敬語を使わないなんて」

「お前に敬語を使う気になれん」

「ストレートに失礼ね……」

「悪い意味じゃない」

「じゃあ、どういう意味?」

 先ほどの気品とは打って変わってすねたような口ぶりと上目遣いで尋ねる彼女は、
きっと誰が見ても愛らしく「護ってやりたい」と思わせる魅力があった。

(やられたな……)

 昼間にジャジャ馬姫だとガッカリしたことなど風とともに吹き飛んでしまった。
 俺は目の前に広がる青空を何よりも、眩しい、と感じた。

「忠誠を誓おう。ティアニス王女」

 出逢ってから初めて、ちゃんと彼女の名を呼んだ。
 そして、やわらかい手を取り、甲にそっと……

 くちづける。

 使い古された、王女と騎士の誓い。
 叙任式のときも場の堅苦しさに緊張したが、今は別の意味で緊張していた。(あお)(きら)めく月に照らされた彼女の微笑みがあまりにも、綺麗すぎて……

 二人きりの儀式。
 二人きりの誓い。
 神は見ていなくても、月だけが見ていた。
 風さえも藍に染める、夜。


 この夜を

 俺は決して忘れない────……



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第1楽章 終
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