君の声が聞こえる
　答えたくなかったのだ。

良くも悪くも、私は交際の範囲が狭い。だからだろうか？

　母は私がこうなった理由を雅巳に関連する事ではないかと思ったようだ。雅巳の心臓の事も、私は雅巳のと仲良くなった頃に母には話していた。

　私は母には何でも話すようにしていた。話せなかったのは加藤君の事ぐらいだ。それが今、アダになったのかもしれない。

「雅巳ちゃんに何かあったの？」

「雅巳……」　

　その名前を口にしながら私はまた大声を上げて泣いた。





雅巳のお通夜には母が付き添ってくれた。

泣き続ける私を自分の部屋に連れて行き、ベットに横たわらせた後、雅巳の母親に連絡を入れた母は、雅巳の死を知ったのだ。

それで、私が何も言わずに泣き続ける理由も分かったのだろう。

私はお通夜の当日を迎えるまで、ご飯が咽喉を通らなかった。お腹が空かないのだ。

勿論、眠れないし、部屋の隅で膝を抱えて泣き続ける事しか出来なかった。

そんな私を心配して、母は何度の様子を見に来たり、おにぎりを持って来てくれていたが、私はそれさえも受け入れる事が出来ないまま、お通夜当日を迎えた。

ふらつく私を見かねた母は私を支えるようにして、お通夜の会場まで連れて行ってくれた。お通夜は雅巳の母親の実家で行われる事になったらしい。

私は母に支えられながら、自分のような頭が悪くて何の役に立たない人間がこうして生きているのに、雅巳が死ななければいけないのか、その不条理を呪った。

雅巳の母親は私の顔を見るとすぐに私の方に近付いて来た。

雅巳の母親はこんな時だというのに、端正な顔に表情を隠すほど完璧に化粧を施した顔をしていた。


< 189 / 225 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop