エリートな貴方との軌跡
もちろん今すべき事にだけ集中しているからこそ、素知らぬ顔は当たり前でしょう。
すると向かい側の席に着いた男性は、問題の品と図面や資料を一気に机上へ広げた。
「吉川さん早速ですが…、今回の設計図面より外径が1mmほど外れていました。
因みに内径の方は問題なかったが、試作段階で目を瞑る事は出来ないしね」
当社がC社から依頼を受けた品は、割と小さなアルミを主材料とした製品だけれど。
完璧なる最終段階でのミスにも、温和な男性は苦笑してサンプル品を差し向けて来た。
「ええ…、佐々木さんの仰る通りです。大変申し訳ございませんでした。
この季節や湿度状況を考慮しても、1mmものズレは規格外ですから」
彼に一礼をして付け加えた私は、持参したデジタル・ノギスと試作品を手にする。
これは外径と内径の寸法を確認する為で、精度の高い電子製品は七つ道具なのだ。
「うわ…、本当にピッタリ1mmのズレですね…。すみません、その他は?」
デジタルノギスの弾いた数値を現認後、ソレらを机上に置いて佐々木さんに尋ねれば。
「えー…付け加えるなら、内部にごく微かだけどバリが出ていましたね。
ウチが行った全検査だと、約8%の確立で何らかのバリを発見したし。
部品が小さい点を考慮しても、量産段階に移る時の不安材料かなぁ…」
不幸中の幸いというか、C社は検査部門が徹底した品質管理で定評のある会社なのだ。
今の段階で不具合箇所をすべて指摘して貰えた事は、感謝してもし切れないだろう…。
「それほどバリが出るのは問題です。改良も視野に考えなければいけませんね…。
御社から依頼を受けた側として、お恥ずかしい話です…――」
「ハハッ、もしかするとウチの設計ミスかもしれないからね。
久々なのにヤケにしおらしいなぁ…。岩田くん、いつもこんな感じ?」
「何それ…!」
「え…、吉川さんと、え!?」
今までの雰囲気と打って変わってのやり取りに、話を振られたプリンスはタジタジだ…。