エリートな貴方との軌跡
アノ日の修平の表情は鮮明だもの…、名古屋を大切にしている事が伝わるほどに…――
“故郷があるから今がある”…海外に在住していた頃、よく耳にした言葉のひとつで。
幼い頃の記憶が薄れるのは仕方が無いとしても、沁みついたモノは消せやしない。
どれだけ離れようが、どれだけ遠ざかろうが、故郷と縁切れなど出来ないのだと…。
享受してくれた父も、愛知県を大切に思うがゆえ、八丁味噌を愛好しているのかな?
そんな何気ない一端を思い出せたのは、他でもない大切な修平のお陰なのに…――
晴々とした気候につられて、ハイヒールで地面を蹴るように歩を進めて行く私。
そして仕事面でもまた、ひとつの小さな達成感を味わえた喜びに感謝しつつ。
オフィス街にそびえ立つビルへと到着し、急いで自分の元ある場所へと向かった…。
「すみません、只今戻りました」
「おー、お帰り」
「お疲れさま、どうだった?」
「はい…、先方の反応も良好でした。
詳しい事は纏め次第、後ほどご報告いたします」
「あぁ、待ってるよ」
たまたま松岡さんと討論中だった修平にも出迎えられ、その声に安堵させられて。
ダークグレイの瞳にジッと捉えられれば、もう心のわだかまりは消失してしまうの。
試作部内は今日もまた殺伐としていても、此処が堪らなく好きだと思わされるね…。