MEMORIAL ADRESS
マイクロバスに乗り込んでいく後ろ姿を、ただ見つめていた。

上総は、見えなくなるまでマイクロバスの窓から手を振ってくれていた。

沙羅は、それをじっと見つめ返して見送った。




帰りの車中、日向子に手渡された紙切れを開いてみた。

日向子を頭とする上総たちが住む施設は、富山の山の中にあるらしい。



「待ってる…か…」



溜め息混じりの言葉は、沙羅の部屋へ溶けこんでいく。

帰りの車中で増川や後輩たちと何も話さなかった。

話をしたら、さっきまでの事が魔法にかけられた切ないだけの時間になりそうだったから。

沙羅の心が揺れていた。

そして、穏やかだった。

日向子からもらった住所を書いた紙に、もう一行書いてあった事がある。



『やり直せばいい。親御さんを大切にね。頑張れ、沙羅ちゃん』



部屋の中で何度も何度もその一行を読み返す。

そして思った。

母親と、どれだけの期間話をしてないだろう。

自分が家にいなかった事もあるし、会いたくなかったのもある。

顔を合わせば破天荒な事ばかりしている自分に対しての愚痴や、罵りばかりを言う母親に会いたくなかった。
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