MEMORIAL ADRESS
「おか-さん」



振り絞るような声で母親を呼んだ。

忙しく動かしていた手を止めて、母親は振り返った。



「いたんだ。何??どうかしたの」



またすぐに手を動かし出して、母親は前に向き直った。



「手伝うよ。ご飯の用意」



母親はまた手を止めて振り返った。

何か話すときはいつもこのシチュエーションだが、いつもと今日と違うのは…母親が笑っていること。

驚いた表情で振り向いて、目に涙をためてから笑った。



「うん。手伝って」



そこからは早かった。

母親もいつものように愚痴や罵りを言葉にせず、今日あったことを沙羅に聞いてきた。

沙羅も素直に答えた。

嫌いな教師に誘われた和太鼓の公演会で出会った日向子という女性の事。

上総という一つ年下の男の子のこと。

自分を待っていると言ってくれたこと。

母親の仕事の話も聞いた。

自然に、自然に話していたら笑いが出た。



「あれ!?姉ちゃん何事???ぉ母さんの手伝いとか」



二つ年下の弟、奏が風呂場から髪の毛を拭きながら出て来た。



「別に??駄目なんですか」



自分でも驚く程温かい声が喉から溢れ出した。
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