愛夢ーアイムー

流されるままに

あてもなく走っていたわたしは、急に虚しくなり立ち止まった。

なぜか脳裡に俊の顔が浮んだ。



会いに行こう。



今日は金曜日、俊のお父さんの保有する倉庫でバンドの練習をしているはずだ。

駆け出し、倉庫に向かう。


曲がり角を折れたとき、見知った顔をみつけた。

彩子だ。

俊と同じクラスの娘だ。

手には財布とコンビニの袋。

中身はどうやらペットボトルのジュースのようだ。

出入り口から俊が出てくると、

彩子は満面の笑みで駆け寄り抱きついた。

彩子はわたしの方に目線をやると、勝ち誇ったように微笑んだ。


彼女はわたしがいたことに気がついていたんだ。



わたしはそこにいることが嫌になり、走り始めた。

100メートル走ったところで、けたたましい携帯電話の着信音が響いた。

ポケットから携帯電話を取り出す。

「もしもし? 綾花? 今からちょっと来れない?」

電話の主は、数週間前に渋谷の路上で出会った二歳年上、十八歳の由梨奈だった。
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