レンズ越しの君へ
体と髪を念入りに洗って、湯舟に浸かった。


体の芯からホカホカと温まり、少しずつ疲れが癒される。


さっき、廉が『落として来い』って言ったのは、店で染み付いた匂いの事。


彼はあたしが仕事から帰った時に起きていると、いつも真っ先にお風呂に入るように言う。


もちろん、あたしだって疲れているから早くお風呂に入りたい。


だけど、廉があたしにあんな風に言う理由は、それとは違う。


彼は、あたしの体や髪に他の男の人の香水やタバコの匂いが染み付いている事を、心底嫌がるんだ…。


店に来た若いお客の中には、香水がきつい人もいて…


タバコはまだ許せるみたいだけど、いつもと違う香水の匂いがすると、廉はすごく不機嫌になる。


「他の男の匂いを付けてる時は、絶対に抱かない!」


ずっと前に、そんな事を断言していたくらい…。


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