王国ファンタジア【宝玉の民】-外伝-
それでも、ドルメックは認める訳にはいかなかった。
認めてしまったら、身動きが取れなくなってしまう。
仲間を救うことすら…――。
「…俺は、仲間を取り戻す為に強くなった。
それが全てだったんだ!
……っそれの何がいけない?!」
低く鋭く、絞り出す様に言葉を吐き出す。
口内に広がる鉄錆びの味で、噛み締める奥歯の歯茎から血が滲んでいるのが分かる。
「憎しみから生まれた強さは、それだけでしかない。前に進む強さには成り得ない」
「…何も知らない癖にっ…」
アイデンティティを打ち砕かれたドルメックには、他に紡ぐ言葉が見当たらなかった。
「お前が私の事を知らないようにね」
「!」
ベリルは短剣を鞘に納め、真っ直ぐにドルメックを見詰めた。
「私には拾われる前の記憶もなければ、親がいたという記憶すらない」
そう言うベリルの顔には、何の感情も読み取れなかった。
「…拾…われ…た?」
その単語で思い浮かんだのは、召集リスト。
(こいつ、流浪の民か!)
旅先で拾った孤児などを鍛え、育むと伝え聞く【流浪の民】。
ベリルに身体的特徴が無いのもその為か。
「初めの記憶はそこから始まる」
ベリルは己の記憶に潜る様に、目を伏せる。